学校全体での取り組み:保護者とのミーティング 2/25(木)

 メッドフォードへ出発するのは2:30なので、それまで、School-Wide Interventions(以下、SWIと略)に関係する他のスタッフと話をする。

 Palmer博士とSugai博士のミーティングに同席させてもらう。ハワイの学校(ネイティブハワイアンの学校16校、それ以外の36校)にSWIを導入しているが、3月のワークショップでどんなトレーニングをし、どんなデータをとるべきかの打ち合わせだ。遠隔地の学校でコンサルテーションをする場合、現場のコーディネーターをいかに育て、支援できるかということが成否の鍵を握るらしい。ハワイの場合、学区の責任者がこの役目をしていると、Palmer博士。

 SWIでは、校内暴力、器物破損、いじめ、不登校、反抗、薬物、武器の所持、引きこもりなど、様々な問題行動を対象とする。問題行動が起こってからの処置(reactive)、問題行動が起こる前に未然に防ぐ処置(proactive)の両方を行うのだが、重要なのは、校長や教頭など、管理者を含んだチームで意思決定をすることと、データにもとづいた意思決定をするということ。したがって、プロジェクトに参加する学校では、処置プログラムの組みかた(ファンクショナル・アセスメントという分析をもとに考案する)の他に、どうすればチームで問題解決ができるか、そうした手続を学校の公式な手続として定着するにはどうすればいいかなどのトレーニングが必要になる。こうしたトレーニングは、もちろん、昨日の講義のように、大学の講義としては提供されているものの、プロジェクトに参加するすべての人がユージーンまで聴講にくるわけにはいかない。だから、こちらからでかけていって、ワークショップを提供することになる。ワークショップは2-3日になることも1週間くらいになることもある。後でSugai博士に、そういうときに遠隔教育などが便利になるのでは?とうかがったが、あまり肯定的な答えは返ってこなかった。生涯学習学部に頼まれて双方向ビデオでの講義はしたことがあるが、自分が行うようなチームへのトレーニングには使えそうにないという。

 ミーティングの後、Palmer博士と個人的に話をする。ここでは、ほとんど教官が、地域の学校や教育委員会と密接につながっているそうだ。たとえば、Colvin博士は1/3くらいの時間を教育委員会での仕事に費やしている。Sugai博士らは学区と協力して、校長になるための資格の1つとして必修の講義を大学院の授業として提供している。学校の改革はリーダーによるところが大きいと考えるからだそうだ。また、後で話をしたAlbin博士は、障害者のための施設における福祉サービスを向上するための委員の仕事をしている。教官と行政担当者の個人的な関係ではなく、学科と行政とが強いパートナーシップで結ばれていると感じた。

 ユージーンからメッドフォードへのクルマの中でSugai博士から話を聞く。(とはいっても、自分はSugai博士とは初対面なので、お互いに自己紹介的な話がほとんどになったが)

 メッドフォードの小学校、Jackson Elementary School (K-6) の校長は、自分が修士論文を指導した修了生。移民(ラティーノ)の多い、貧困な地区で、朝食の補助を受けている家庭がほとんど。最近は5号線(メキシコからロス、サンフランシスコを通ってオレゴンをぬけ、シアトルまで北上する高速)沿いに麻薬を運ぶギャングが増え、学校もその影響を受けている。問題行動が多く、SWIを導入することになった。学校は学校で予算をとり、自分もセンターの予算を使ってプロジェクトを始めて1年たった。

 センターへの連邦政府の予算の他にもいろいろな研究費をとり、それでプロジェクトを運営している。博士課程の学生には現在すべて教育予算がついていている。学校に予算が降りることもある。たとえば、プロジェクトに参加する学校に、研修中の臨時教員を雇ったり、ユージーンまできて大学院の授業を受講してもらうようにできる予算もある。場合によっては、学校で行うワークショップへの参加を講義の単位として換算できることもある。だからSWIに参加している現職教師がそういう単位を自らの修士号取得へ役立てることもできる。また、自分の研究室に所属している修士の学生(現職/教員志望)が、実際に学校で仕事をする機会にもなっている。こうした修士の学生にとっては、SWIのための教材を開発したり、調査をしたり、データをとることが、プロジェクトの単位(修論は必須ではなく“プロジェクト”でok)とみなされる。

 1997年の法改正で、学校は問題行動の対処に取り組む場合、ファンクショナル・アセスメントをしなくてはいけないことになった。おそらく今年の春には、これをどのように実施するか、ガイドラインが示されるはずである。

 日本のいじめの問題、学級崩壊の問題について聞いてみた。Sugai博士は日系三世だが日本語は話せない。日本にも行ったことはない。いじめや学級崩壊が問題になっているとは知らなかった。ご両親はまだ日本の文化をかなり残されているので、そのへんから想像すると日本の学校は規律がしっかりしていて、人を敬うという教育がなされているのだろうと、漠然と考えていたそうだ。日本の「シカト」みたいな問題はアメリカでは女子中高生にみられ、かなりエゲつなく、手強いようだ。

 6時半にJackson Elementary Schoolにつく。校長のティムが迎えてくれる。とても若い(38歳だそうだ)。それにどうやらオレゴンでは名字はあまり使わないらしく、ついにティム校長のお名前はわならずじまいだった。ティム校長はニコニコしながら「何人くるかわからないよ」と言う。クルマの中でSugai博士とも話していたのだが、こうしたプロジェクトの成功に保護者や地域の協力は重要なものの、いろいろな問題(経済的、文化的とか)があって、なかなか参加は増えないという。それに、こういう会合にでてくるような家庭にはそもそもあまり問題がない。何らかの処置をする必要があるのは、会合にでてこないような家庭の方だ。

 7時。ワークショップ開始の時間。この時点で保護者は5人くらい。そのうち4人がラティーノ。英語がわからないから、両方わかる親に通訳してもらうそうだ。教頭のアイザックが表れる。アイザックはティムよりも若い!そしてまたしても名字はわからなかった。7時15分で、15人くらいの保護者が集まり、ワークショップが始まった。Sugai博士はノートパソコンとパワーポイントのプレゼンから急遽、インフォーマルな座談会的な雰囲気にスイッチして話を始めた。内容は、いかに子どもを指示に従うように育てるか、そのためのテクニックを具体的に、自分の2人の子どものことを例にとり、話していく。この話も面白かったので、そのうち、コラボネットのワークショップにまとめよう。

 学校が総力を挙げて問題行動の解決に挑むので、できるだけ協力してほしいという校長からの挨拶でワークショップ終了。8時45分くらいだった。